カテゴリー
アスリート インタビュー

マラソンランナー吉田香織さんインタビュー

theANkoが応援するアスリートの皆さんをご紹介するインタビューシリーズ。今回はマラソンランナーの吉田香織さんをご紹介します。

●吉田香織●埼玉県立川越女子高校卒業後、積水化学・資生堂に実業団選手として7年間所属。その後は市民ランニングクラブで競技を続けた。TEAM R×L所属SALOMONフットウェアアンバサダーとして、競技を続けながら、スポーツツーリズムの研究、イベントやランニング教室開催、後進の育成に務める。
【主な戦歴】 1999 アジアクロスカントリー優勝/2000 世界クロスカントリー14位/2002 横浜国際女子駅伝日本代表/2006・2016北海道マラソン優勝/2010 シカゴマラソン7位/2010・2012ゴールドコーストマラソン優勝/2015 さいたま国際マラソン日本人トップ/2017・2018ハセツネ30k二連覇/2018 大阪国際女子マラソン5位/2018 サロマ湖ウルトラマラソン50km総合優勝·大会記録/2018 富士登山競走5合目の部優勝/2019 青梅マラソン優勝/2019 富士登山競走5合目の部優勝
Youtube吉田香織ランニングチャンネル


-高校卒業後すぐに小出義雄監督のいらっしゃった積水化学や資生堂で7年間の実業団選手生活を過ごし、その後は市民ランナー向けクラブ運営、マラソン大会運営会社、ランナー向け雑誌出版社などに在籍していらっしゃいます。一貫して”走ること”に関わってきたわけですが、今回コロナで、吉田さんのランニングとの向き合い方に変化はありましたか。

ウィズコロナの中で、ランニングの継続が難しくなってしまった方も多いと思うんですが、私自身も自粛期間中は特に、外を走ってはいけないような雰囲気で、堂々と走れない時期があったんです。

私は今39歳ですが、今もなお競技を第一線でやろうとしている中で、市民ランナーの皆さんからたくさんパワーややる気をいただいてきたんです。皆さん仕事や生活、いろんなご家庭や事情がある中でランニングを楽しんでいらっしゃる姿に、すごく刺激をいただいていて。それこそ実業団時代の”競技一辺倒”の頃よりも、です。速さやレベルに関係なく、誰でも楽しめるランニングのよさというのをつくづく感じました。

-8月にユーチューブで「吉田香織ランニングチャンネル」、9月に「ウィズラン」というオンラインランニングチームを立ち上げています。オンラインでの活動を拡大したのはやはりウィズコロナの影響でしょうか。

今回色々と環境が変わった中で友達(ユーチューバーでシンガーソングランナー®︎のSUIさんや、当ブログにご登場いただいた尾藤朋美さんなど)と”オンライン飲み”で話をしてる時に、「市民ランナーのみなさんが少しでも時代に見合った形でランニングを続けられるような活動がしたいね」という話になって。

コロナのため在宅が多く、ランニングを新しく始めたという人もむしろ増えている感じはありますし、そういった方々がこれからも走りを楽しんでもらえるように私たちが提案できればと思っています。

-ウィズランではどういう活動を?

オンラインイベントが主なんですが、「ランニングはしなくてもいいです」くらいの気持ちでいます(笑)。年齢を重ねたり故障していたり、ランニングを離れている方ともつながっていたい気持ちで始めたところもあるので。あとは海外赴任中だったり地方だったり、違う地域の方々と出会えるのが楽しい。ランニングイベントに参加できる機会の少ない地方の方などには特に喜んでいただけているかと。

オンラインだと皆さんの満足度が見えない部分もあるので、「楽しんでるかな」とすごく気になります。ランナーの皆さんはわりとおとなしい気質の方が多い印象なので、参加者同士がコミュニケーションをとって横のつながりができるよう、活発に交流できるオンラインサロンにしたいと思っています。

-参加者の皆さんそれぞれ思惑が違うと思うんです。ちょっとした運動がしたい方、吉田さんの本格指導を受けたい方、筋肉をつけたい、早く走りたい、持久力をつけたい、などなど。ウィズランの中で役割分担はありますか。

今参加者が100人ちょっと。私、SUIちゃん、福島和可菜 ちゃんをそれぞれ応援して下さる方々が主なので、「熱烈に指導を受けたい!」という方はまだ少なくて。今後は私たちのことを初めて知ったけど加入したい、という方ももちろん参加してきてほしいです。私は競技者目線でのハウツーを提供することができますし、動画を送っていただければオンラインでのフォームチェックや指導もできるので。3人それぞれの個性を生かして運営していきたいねといつも話しています。

-”指導”の話が出ましたので。吉田さんは現在ご自身も競技者として活動中ではありますが、今後指導者としての活動はお考えですか。

そうですね、陸上は女性の指導者が少ないんです。特に生理や女性特有の体の問題は男性指導者には話しにくい一番デリケートな部分なので、これからの女子選手のためにも女性指導者が増えることは重要だと思っています。

コロナの自粛期間中に近所の大きな公園に行くと、部活ができなくて一人で走ってる子がたくさんいるんです。おばちゃん根性で「ひとりで走ってるの?」とか「どういうメニューでやってるの?」とか話しかけて仲良くなったりして(笑)。

-その子たちは”吉田香織さんだ”って分かってるんですか?

私のことを分かっている子と分かってない子と半々くらい。そうやって仲良くなった子と今も時々走ったりしています。あと、陸上で有名な駒大高校や大東一高の指導者が知り合いで、ときどき顔を出して勉強させてもらっています。学生に指導するっていうのは全然畑が違うなあと思いますね、同じようでいて。まだ勉強中の身ですけど、そういったことも始めています。

吉田さんのオフラインランニングイベントにて

-競技のことも、体のことも、なんでも相談できる頼り甲斐のある女性指導者は、若い女子選手にとっては何より得難い存在ですね。

やはりかなり体を酷使する競技なのでケアは大事です。女子選手によくあるのが生理が止まること。生理がない状態なので一時的に老化が進んで骨粗鬆症になるなど言われています。実業団時代、私自身も18歳から20歳まで生理がない時期がありました。移籍して食生活の制限のないチームに所属できた後は改善しましたが、いまだに体重制限などを厳しく管理しているチームもあるんですよね。

-若い選手は特に体のケアと共にメンタルケアも必要ですね。

常に厳しい競争の世界に晒されてる状況なので、メンタルに問題が生じて競技が続けられないなどのケースもあります。甘いものは絶対禁止などと極端な指導をされて追い詰められることも。

theAnko」もそうですけど心の安定がはかれるじゃないですか、スイーツって。極限まで体を酷使している中で、必要な栄養素をキッチリ摂るだけじゃなく、美味しく食べる、甘いものに癒される、そうやって心を満たすこともすごく大事な要素だなと、今思います。

吉田さんのオフラインイベント参加者のみなさん

先日朋ちゃん(尾藤朋美さん・前出)に初めてtheANkoを教えてもらった時の話なんですが、高尾山をトレイルランしていた、結構暑い日だったんですよ。終わりかけに沢に入り気持ちよくアイシングしてフーって一息ついたとき、朋ちゃんが「そうだ、飲むANko持ってきてるんだ!」って出してくれて。もうシチュエーションもあいまって、あれは人生最高のあんこでした(笑)

-そんな最高のシチュエーションで出してくれた尾藤さんに感謝です(笑)。先ほども少し話に出ましたが、コロナの流れで「これからスポーツ始めてみよう」という人も多く、特に在宅勤務になった4、50代に顕著だと言われています。その人たちがいきなり始める場合に気をつけるべきアドバイスをお願いします。

まず基本のフォームから。人間の足って二本をまっすぐ使ってあげないといけないんです。女性っておしとやかに歩くために一本の線の上を歩いて行く癖があるんですよ。このまま走ってしまうとほとんどの方が足首や膝、股関節を痛めてしまう原因になります。

まずは走り出す前にウォーキングを練習に多めに入れていく。その際、道に線があると思って、右足が右の線の上、左足は左の線の上、というように足をまっすぐ置いてってあげる練習をしてから走り出すように癖付けると怪我しにくく走れます。これが「二軸走法」です。

例えばオリンピックの映像などを見てもわかると思うんですけど、基本的にみんな二軸走法なんですよ。実際に速く走るにも地面に直接力を全て伝えた方が早く進めるわけですから、この右と左2本ある足をまっすぐ使うっていうのをまず脳にインプットさせてから走り出すっていうのが基本ですね。

ウエアは変な話ジーパンでも全然いいと思うんですけど(!)その人に合ったレベル、体型、走り方に合わせたシューズを選ぶことがすごく大事。最近の専門店のスタッフは心得てると思うのでちゃんとランニングの専門店に足を運んで相談しながら決めてください。安いからで買ってしまうと結局足に合わなくて買い直すことになるので。

-中年になって運動を再開すると、セルフイメージと実際の運動能力の間に乖離があって、怪我をする人が多いと言われています。

大人なんだからもうそんなに高望みしない(笑)。階段を登るように少しずつ。最初は1分走れればいい。自分に甘えを許してあげるっていうメンタルが大事かな。でも一生懸命走っちゃいますよね、ランニングしたいっていう人は真面目ですから(笑)。

トップアスリートもウォーキングの練習をたくさんしますよ。ウォーキングである程度足を作ってやっと走るんです。私がこれから走りだす人に勧めるのがハーフスクワット。わざわざスポーツジムに行かなくても、自分で少しずつ筋トレしたらいいですよ。女性は筋力が少ないのでしっかり足を作ってから走りだしましょう。

昨日も初心者向けの練習会をしました。途中10分間ウォーク10分間ジョグで時速6キロ以上で歩きましょうっていうメニューで。わりと普段走っている人ばかりだったんですけど「ウォーキングって疲れますね!」って口々に言ってました。

-とても有益な情報をありがとうございました。では最後に今後の活動に関して、今後こうしていきたい、というものがあったらお聞かせいただけますか。

私やりたいことがたくさんあって。今やっている地方創生活動ともからめながらランニングの良さを多くの人に知ってもらいたいというのが大きな目標でしょうか。やるだけじゃなくて、見る楽しさ、ボランティアで支える楽しさなども広げていきたい。マラソン大会運営会社にいたときに、ボランティアの方たちにすごく喜んでもらえたのが印象に残っているので、マラソン大会運営もやってみたいしジュニアクラブも作ってみたい。自分一人ではどこまでできるか分かりませんが、みんなの力を借りながら。自分自身をまだ開拓中なんです。

「一流のアスリートは話が上手」という定説どおり、こちらが理解しやすく興味を持つように様々なことを楽しく話してくださいました。長年の厳しいトレーニングや試練を乗り越えてきた人の、まっすぐで迷いのない言葉選びが印象的でした。「やりたいことがたくさんある」と話す吉田さん、彼女の本質は”公園で練習中の学生に声をかけて一緒に練習してしまう”というエピソードに表れているのでしょう。