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アスリート インタビュー

リオ五輪競泳自由形リレー8位入賞 小長谷研二さんインタビュー(後編)

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小長谷研二(こばせ・けんじ)1987年7月31日生まれ 北海道札幌市出身  中央大学法学部法律学科卒。2010年に岐阜県に就職。糸井統先生(1992年バルセロナオリンピック200m背泳ぎ4位、1996年アトランタオリンピック200m背泳ぎ5位)に師事。2012年岐阜清流国体で得意の100m自由形優勝。2016年リオデジャネイロオリンピックでリレー8位入賞。 

【主な戦歴】 ・2011年 ジャパンオープン2011 100m自由形優勝/ユニバーシアード大会100m自由形5位 ・2012年 国民体育大会100m自由形優勝/世界短水路選手権100m自由形12位 ・2013年 世界選手権 4×100mフリーリレー8位 ・2014年 国民体育大会100m自由形優勝 ・2016年 日本選手権兼五輪代表選考会100m自由形3位/オリンピック4×100mフリーリレー8位

 

前編では多種のサプリメントを使いこなした時期からサプリメントを一切摂らなくなるまでの変遷をお聞きしました。
後編ではなかなか一般の人が知る機会のないドーピング検査の実態について伺います。

■■留守ならペナルティ〜ドーピング検査の実態〜

–実際にドーピング検査を、もちろん抜き打ちですよね、何回ぐらい受けられましたか。

僕は結構少ない方で、年に2回か3回ぐらいです。多い人だったらもっとですね。サプリメントでドーピング検査に引っかかってしまった例が出てきてからさらに厳しくなりました。

–どのくらいのレベルの選手が対象なんでしょうか。

日本の水泳選手だったら日本ランキング上位の30人くらいだと思います。日本アンチドーピング機構に24時間のスケジュールを提出して、1時間くらい検査員と立ち会える時間を毎日設けるんです。そうすると、その時間に検査員がやってきて検査する。ランキングが高い人ほど、検査の頻度は多いと思います。多い人は1週間に2回とか1ヶ月に4,5回なんて話も聞いたことがあります。

–トップ選手は風邪薬も飲めないなんて聞きますけど、週に2回も検査があると薬を飲むタイミングもないですね。

そうですね薬には本当に気を遣いました。病院の先生方にドーピング検査があって、と説明すると頭を抱えてしまうんですよね。どの薬も100%安全じゃないから検査にひっかかっても誰も責任を負えないですし。僕も38度の熱が出ても自力で治していました。

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–指定した時間に指定場所にいなかった場合は何か罰則があるんですか

例えばお昼の12時に絶対家にいます、と提出します。もしその時間に急に友人にご飯に誘われて留守にしているとき検査員さんが来た、となったらもうそれでペナルティが1回。3回連続でペナルティがつくとドーピング違反とみなされて試合に出場できません。1回でもペナルティがつくと検査員が来る頻度が上がるという話も聞いたことがあります。いろんなストレスに縛られながら選手たちも生活してるって感じですね。

–ドーピング検査員っていうのはどんな感じの方ですか。今お話を聞いたイメージだと、映画「メンインブラック」みたいな黒いスーツにサングラスかけて無言でIDを突き出して・・・的な?

30%ぐらいそのイメージでよろしいかと思います(笑)。2人組なんですよ。僕はだいたい朝6時に設定していました。自宅に絶対いるから。朝6時にピンポーンって検査員の服着て二人で玄関前に立ってるんです。「ごめんなさいね〜朝早くから〜」なんて言ってくれたりする方が担当のときは、眠くても気分よく検査に協力できました。

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国際大会では本当にもうランダムです。突然部屋に入ってきて、「○○いるか、△△はいるか」って英語で言われて、僕たちが下げているIDカードを見ながらチェックして連れて行くんです。チームメイトの日本選手が買い物からふらっと帰ってきた瞬間に「お前だ来い」って言われてレジ袋を下げたまま連れていかれる、なんて場面もありました。いつどこでどういうドーピング検査があるかわからないっていう状況でしたね。

■■あんこの使い方・消化吸収をよくする方法とは?

–そんなドキドキハラハラをするなら、ちょっとでも疑いのあるものは摂らない方がマシだっていう感覚もわかりますね。その流れで、現役の最後の方にドーピングの心配のない「あんこ」に行き着いたそうですが、きちんとした小長谷さんはあんこも計画的に摂取されていた?

練習の前は1時間半〜2時間前には何か固形物を食べるんですが、時間がないときやあんまりお腹が空いていないときに、あんこを使っていました。練習中はスポーツドリンク、水、100%フルーツジュースなどとあんこを交互に飲んだり。練習後は帰宅して食事までの間とか。

なるべく栄養を切らさないことを意識していました。あんこは砂糖と小豆しか使ってない分、限りなく100%安全に近い食べ物ではあると思ったので、これは使えるなと。日常生活や、練習前後、試合中など様々なところで役立ちました。

–あんこをエネルギー補給に使って気になる点はありましたか。

腹持ちはすごくよかったんですが、逆に消化がしにくいと感じるときもありました。そういうときは一緒に水を飲んだり、数回に分けたり。あんこを一気に取りすぎると練習中に力が抜ける「インスリンショック」を感じることがあったので、個人個人で微調整は必要だと思います。僕は結構インスリンショックが頻繁に起こるタイプだったので、なおさら気をつけました。

–以前、阪神の近本選手に使い方を伺ったときも、やっぱり1袋全部だと試合中に消化しづらいとおっしゃっていました。色々試して「1袋の半分摂って水を多めに飲む」とちょうどいいことが判明したと。

特に運動中は糖質と水を半分ぐらいの割合で飲むと一番消化吸収がいいと実験でも判明しているんですよね。アスリートだからそれは感覚でもわかると思います。やっぱり運動中は胃に血液が回ってないので普段の状態より消化しにくいんですよ。人それぞれ体にあった方法を見つけてほしいと思いますし、もちろんその「水と一緒に小分けに摂る」っていうのは本当に使えるテクニックなので、おすすめです。

■■若いアスリートたちへ

–では最後にスポーツで上を目指す若い方達にひとことお願いします。

スポーツをして育つ能力のひとつに「自己管理能力」があると思います。栄養の面だけで言っても、どういった摂取の仕方をするか、何をどのタイミングで摂取するか、必要最低分は摂れているか、素材は何か、など面倒でも注意すべきことがたくさんあります。自己管理能力が上がると競技のレベルも上がっていくと思うので、ぜひ意識してもらいたいと思います。

恩師の糸井統先生と

–小長谷さん自身は、水泳をやってきて良かったなと思うことはなんでしょう。

自分自身を深く知れたことですね。性格、こだわり、いいときと悪いときの状態。それから探究心を持つようになったこと。スポーツを通じて興味をより深く掘り下げるようになりました。サプリメントがきっかけで、栄養のことを勉強するようにもなり、自分で蓄えた知識を人に伝えて感謝されることも多いので、それも水泳をやっていてよかったと思うことの一つですね。水泳をやらせてくれた両親には感謝しています。